0day. 誕生

 目を開く。瞼の裏の闇を切り裂いた空は青かった。広大な青にゆたう縮れた雲が一筋だけ流れていた。日の光は眩しくて直視できなかった。視界を遮るものは何もなかった。草原の中、剥き出しにされた大地に刻まれた魔術円。その中心に私は立つ。
 空も青も雲も太陽も草原も大地も知っていた。くるぅ、と喉を鳴らす。傍には影があった。影を見上げる。私は影も知っていた。
 影は人だった。青い長い髪の女性だった。青い目だった。彼女は私の姿を見て言った。
「大トカゲ」
 それが、彼女の第一声。
 彼女は一つ瞬いて、右手に持った杖を構える。ぐねりぐねりと老樹のように捻じ曲がった杖には色のない水晶が埋め込まれていた。
「我が名はノヴェレイア=トライント。我が血肉を紡ぎ生まれし使い魔、汝、我に従い、我に守護を……ああ、面倒臭い。この後、色々長ったらしい制約文が続くんだが、受けた気になってくれ」
 彼女は誰も居ないことをいいことに、儀式の五分の四程度を省略した。
「用は私に従って、私を守ってくれればいい」
 契約の言葉もかなり省略された。
 彼女は目元を緩めて、微かに口元を持ち上げる。穏やかな微笑。
「ようこそ、この世界へ。私の使い魔」
 それが、彼女の祝福の言葉。
 私の主人、ノヴェレイア=トライント。