|| 本棚トップ ||

 夢を見た。
 真っ暗。
 真っ暗。
 真っ暗闇。
 ぽつんと私がいた。
 いたのだろうか。
 私は、本当にそこに存在していたのだろうか。
 視界は、黒一色で自分も見えなかった。
 本当に、其処にいたかどうかも判らなかった。
 何かに認識されなければ、私は存在していないと同じだろう。
 真っ暗真っ暗真っ暗闇真っ暗ぽつんと灯り。
 光が灯った。
 ただの白い光だった。
 炎のように揺らぐわけでもなく、私の姿を照らすわけでもなかった。
 ただの光があった。
 私が認識したのだから、光は其処にあったのだ。
 これだけは確か。
 そして、私は光に認識された。
 ということは、やはり私は其処にいたのだ。
 何故なら、問われたから。

 この世界で何か一つ残すとしたら、何を残す?

 どうやら、こちらの世界はもう修復不可能なほど壊れたらしく、次の世界を作る時に、こちらの世界のものを一つだけ残すらしい。それが無いと、次の世界が作れないのだそうだ。
 随分と、不便かつ面倒そうである。修復不可能なほど壊れた世界のものを、次の世界の軸にしていいのだろうか。
 白い光はどうやら神様らしかった。
 髭も何もなかったが。
 剥げ頭に後光が差したら、こんな感じかもしれない。
 もっとも、頭も無かったが。
 私は、どうして私に訊くのか問うた。
 自慢にもならないが、私は成績も運動神経もよくなく、怠惰で、歌も絵も上手ではなく、あまり自分に自信がない。
 光が言った。
 誰でも良かった、と。
 世界中の全ての中で、ただ私が選ばれただけらしい。
 成る程。
 人やイリオモテヤマネコや本やマフラーや犬や襖や砂やウツボカズラなどを、ごちゃ混ぜにした中で抽選に当たったものだと思えばいいわけだ。かなり適当だが、次の世界は大丈夫だろうか。
 私は考えた。
 私には考えられない事だが、時間は腐るほどあるらしいので、たっぷりたっぷりたっぷり時間をかけて考えた。
 困ったものだ。 次の世界に影響を与えるのが自分とは。
 ここの世界ではないのがまだ救いだが。家族や友人、知人、好きな人たちがいるこの世界に影響を与えるものを選べ、と言われたなら、私は何も選べなかっただろう。
 私は考えた。
 自分の存在は残すまい。 他に誰も何も無い状態で私がいるということは苦痛だ。
 自分が何よりも誰よりも大切だが、その何も誰も無いなかでは、大切だという意識も無いに違いない。 バイオ○ザードというゲームの中に実際入ったら、まずゾンビの仲間入りするしかない、と思った私である。
 はてはて、困った。
 一応私は問うてみた。
 自分の存在を残すことは可能かのか。
 光は可である、と答えた。
 前にもそんなことを言ったものがいたらしい。
 しかし、それが残った世界は、それの影響を殆ど受けずに世界となったそうだ。
 随分と寂しいことだ。世界が世界となるまでに、存在するものでは寿命が足りな過ぎるんだろう。
 何を残すか。
 永遠を残すか。
 言葉を残すか。
 意味を残すか。
 愛でも残すか。
 私は漸く答えをだした。

 物語を残す。

 光は何故と問わなかった。
 問われたら無視する気満々だったが。
 光は私に物語とは何かと問うた。
 物語とは、
 存在が綴るものであり、
 全てが持つものであり、
 終わりであり、
 始まりであり、
 伝わるものであり、
 一つの見方であり、
 巡るものであり、
 繋がるものである。
 私は答えた。
 光がわかってくれたどうかわからないが、光は其れを残すと言った。


 そこで、

 目が

 醒めた。

 ベッドの上だ。
 目覚ましが止まっていた。
 遅刻だ。

 何だったのか、あの夢は。
 夢だったのか。
 現実にあったことを夢にしているだけではないだろうか。
 しかし、この世界はまだ存在し、次の世界というものを私は知らない。
 何処かで作っているのかもしれないが。
 遅刻した理由を紙に書きながら私は思った。
 優しい心を残すと言うべきだったか。
 しかし、まぁ、私はあの光が見捨てたと言ったこの世界で生きるしかないのであり、こんな適当な世界でも、優しい心というのは存在しているのだから、勝手に生まれてくれるだろう。
 優しい心もエゴだの抽象的だの言われてる事だ。
 さて、一時間目は化学だ。
 眠くなるな。


|| 本棚トップ ||