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 往々にして、変なヤツとはクラス内に一人いる。
 そして、クラス内に一人いるということは、必ずその隣の席のヤツがいるということになる。
 さらに、その隣の席になってしまったヤツというのが俺だったりする。
 この、自他共に認められている変人(変人と認識されることに喜びを感じる相手にとってこれは悪口でもなんでもない。寧ろ賛辞だ) 川凪玲は、本日、何故か知らないが、トックリ(徳利)を持って現れた。
「おはよう、三村」
「おはよう」
 川凪と俺との間でごくごく普通の挨拶を交わされると、ごくごく普通でないおかっぱ頭の日本人形が三体(日本人形を数える時は体でよかったか? ) 描かれているトックリが、何処にでもあるようなごくごく普通の机の中央にどんと居座った。
 ごくごく普通の中に異質なものが混ざると、非常に浮き立って見えることが良くわかる。
 まだ起きて一時間経っていない寝ぼけた俺の脳みそが尋ねたいことはこれだけだ。
「何故にトックリ」
 しかも、絵柄は日本人形三体赤着物青着物黄着物。
 語呂も良くて素晴らしい。
「ああ、これか」
 川凪は非常に困った、という顔をして俺を見る。
「昨日、買ったんだ」
「だから、何故にトックリ」
 学校に持ってくる意義もわからん。
「昨日、ノートを買いに行ったんだけどな。気に入ったのがなかったんだ。雷の中わざわざ買いに行ったんだぞ。 其の侭何も買わずに帰るのも癪だったから、衝動買いでもしようと思い立って、買った」
「だから、何故にトックリ」
 俺はそろそろ同じ問いを繰り返すのに疲れてきた。
「衝動買いをしようと思い立った時に安売りのトックリがあったんだ。買うしかないだろ」
「……そうか」
「しかし、必要ないものを衝動買いしてしまって困ってるんだ。 要らないんだ。夜睨まれて怖かったし。三村にやろうか。きっと2年後に役立つから。さぁさぁ」
「いらんものを人に押し付けるな」
 品物が欲しいわけではなく、衝動買いしたい衝動に突き動かされる川凪。一風変わった思考回路。 これが、川凪が変人と呼ばれる由縁の一部分である。
「朝っぱらから人目を憚らず『転生占い =星座と前世の密接な関係=』を読んでる奴に変人とされると、 私の変人度が増した気がしてすこぶる気分がいいな」
「人の心を読むな。本の事はほっとけ」
「心が読めるわけないだろ。勘だ」
「そーか」
 実を言うと、この趣味は川凪と逢う前にはなかったものだ。
 往々にして、変なヤツとはクラス内に一人いる。
 その変なヤツに感化されて表立って現れた己の変な部分を恥じなくなるということも、往々にしてあることなのだ。
 川凪の所為だろうか。
 このクラス2年4組では変人増殖中である。

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